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東京地方裁判所 昭和29年(ヨ)183号 判決

申請人 西田佐一郎 外三名

被申請人 四国電力株式会社

主文

申請人らの申請をいずれも却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

事実

申請人四名代理人は、「被申請人が申請人西田佐一郎、同浜渦亀治、同水嶼礼一に対してそれぞれ昭和二九年八月二四日附でなした解雇の意思表示は、申請人四名が被申請人に対して追つて提起すべき解雇無効確認等請求事件の本案判決確定に至るまで、いずれもその効力を停止する。被申請人は右期間中申請人西田、同浜渦、同水嶼に対してそれぞれ所定の賃金その他の給与をなし、且つ社宅の貸与などその他従来同様の待遇を与えなければならない。」との仮処分の裁判を求め、その申請の理由として、

第一、被申請人四国電力株式会社(以下単に会社という)は肩書地に本店を置き四国四県下の各地に対する電力供給事業などを営む株式会社であり、申請人西田佐一郎、同浜渦亀治、同水嶼礼一はいずれも会社に雇傭されていた従業員であつて、西田及び浜渦はともに同会社高知支店安芸営業所田野散宿所に、水嶼は同会社高知支店田野変電所にそれぞれ勤務していた者、申請人日本電気産業労働組合(以下単に電産という)は、日本国内における電気産業に従事する労働者でもつて組織する労働組合であつて、昭和二二年五月八日以来、申請人西田、同浜渦、同水嶼らをいずれもその組合員として認め、現に同人らをその統制下においている者である。

第二、会社は申請人西田、同浜渦、同水嶼(以下西田ら三名という)に対しそれぞれ昭和二九年八月二四日附書面を以て「四国電力労働組合との労働協約第四条第二項本文により解職する。」旨を通告し、同人らをいずれも解雇した。元来電産は会社の従業員が所属する唯一の労働組合であつたのであるが、昭和二八年七月頃電産四国地方本部(以下単に電産四国地本という)傘下に分裂現象が生じ、会社の従業員である電産組合員の一部によつて同年八月一三日四国電力労働組合(以下単に電労という)が結成せられ、次いで昭和二九年四月一日に至り会社と電労との間において労働協約が締結されたのである。そして、その協約第四条には「(1)会社は、組合が会社の従業員をもつて組織する唯一の労働組合であり、従業員の労働条件その他待遇に関し、交渉権を有する団体であることを確認する。(2)会社は、従業員であつて組合に加入しない者、組合を脱退した者及び組合から除名された者は、これを解雇する。但し、会社の業務に重大な支障をきたす者及び特殊な事情のある者の解雇については、会社は、組合と協議する。」という所謂ユニオン・シヨツプ条項が規定されているのであるが、会社が同条第二項本文に則り西田ら三名を解雇した所以は、会社において、西田ら三名が電労の組合員であつたにも拘らず電労を脱退して電産に加入したものと思料したことに因るものである。

第三、然しながら、会社が西田ら三名に対してなした右解雇は、次の理由によつて無効である。即ち、

(一)  西田ら三名は、前記のとおり昭和二二年五月八日に電産が結成せられて以来引き続き電産の組合員であつて、未だ曽つて電労の組合員となつたことはない。そのことは次の各点から明白である。先ず、同人らはその所属組合である電産から脱退した事実が全くないといわなければならない。唯同人らは、電産が前記のように分裂した際に当り、電産高知県支部安芸分会に対して脱退届を提出したことがあるけれども、昭和二八年一〇月頃にその申達をうけた電産四国地本においては、それらの脱退届がそれぞれ本人の署名であるか否か、従つて果して同人らに電産から脱退する真意があるのか否かが疑問であつたのでその点を確めたところ、同人らから電産脱退に関する積極的な意思表示がないだけでなく、かえつて、脱退届を提出したのは、職制上の上司より支配されたことに因るものであることが判明したので、同地本としてはそれらの脱退届を中央本部に提出することを見送つている内、昭和二九年七月一日に至り同人らから口頭でもつていずれもその脱退届を撤回する旨の申入をうけ、次いで同年八月一四日に同人らからそれぞれ脱退届の撤回届が提出されたので、電産においてはその撤回についてすべて承認を与えた次第である。そして、電産規約第七二条には、「この組合から脱退したいときは、その理由をきめられた書式により各所属機関を通じて中央執行委員長に申出る。」同じく第七三条には、「中央執行委員長は加入又は脱退の申告を受けたときは、中央執行委員会にかけてきめる。」とそれぞれ規定されているのであつて、その手続を了えない限り電産の組合員は電産から脱退することができないわけであるから、西田ら三名は終始一貫電産の組合員であること勿論である。次に、これを反面からみると、同人らが電労に加入してその組合員になつたことがないということになる。もつとも、同人らは、電産の前記分裂に当り、電労結成に関する発起人らから、若し電労に加入しなければ会社から解雇される旨脅迫された結果、電労の設立趣意書にそれぞれ記名押印したことはあるけれども、電労の組合規約第七三条には、「この組合に加入するときは、きめられた申込書に申込金を添えて、支部執行委員会を通じて本部執行委員長宛に申込をする。」、同じく第七五条には、「本部執行委員長は加入又は脱退の申告を受けたときは、本部執行委員会にかけて決める。」とそれぞれ規定されているのであつて、三名ともいずれもその所定の手続を履践していないから、電労に加入したことにはならず、又その後右手続をしたこともないから、電労に加入したことは絶えてないわけである。唯三名とも右記名押印をした後においては、いずれも電産に組合費を納入することなく、専ら電労に対して所定の組合費を納入し、電労の組合大会又は職場大会に参加し、電労の機関紙を閲読し、或いは浜渦が昭和二八年に西田が昭和二九年にそれぞれ電労傘下の執行委員に就任したりしたことがあるけれども、それらはいずれも電労組合員として活動したものではなくして、電産組合員でありながら、一時的に電労に関係したものに過ぎないから、西田ら三名は未だ曽つて電労の組合員となつたことはないといわなければならない。そうすると、西田ら三名はいずれも電産の組合員であつて、電労の組合員ではないから、会社としては、会社と電労との間の労働協約に依つて同人らを解雇することは到底許されるところではなく、会社が同人らを解雇することができる場合は、会社と電産との間が無協約である現在、ひとり同人らが就業規則所定の解雇事由に該当するときのみに限定されるわけである。しかるに、会社は電労との労働協約に則り西田ら三名を解雇したのであるから、その解雇がいずれも無効であることは明かである。

(二)  仮に西田ら三名が電労に加入しその組合員になつていたとしても、反面において同人らは右説明のように電産から脱退したことがなく、依然として電産の組合員でもあつたわけであるから、両組合に同時に二重加入していたものである。従つて、そのような場合に会社が同人らを解雇するためには、会社と電労との間の労働協約上の解雇約款に則るのみでなく、更に電労の組合員であると否とに拘らず会社の一般従業員に対して適用がある就業規則所定の解雇条項に照らしても解雇ができる場合であることが必要であると解すべきところ、会社の就業規則第七三条には「社員が次の各号の一に該当するときは解雇する。(1)本人が退職を希望するとき、(2)停年に達したとき、(3)懲戒解雇に処せられたとき、(4)業務外の傷病、又はやむを得ない本人の事情のため休職を命ぜられその休職期間が満了したとき」、同じく第七四条には、「社員が次の各号の一に該当するときは解雇することがある。(1)障害保障又は打切保障を受けた者であつて、その傷病又は障害のため従来の勤務に堪えないと認められ、且つ、他の職場に転換することができないとき、(2)職務の遂行に必要な能力を著しく欠き、且つ、他の職場に転換することができないとき、(3)経営上やむを得ない事由があるとき」とそれぞれ規定してあつて、解雇事由を制限列挙しているのである。そして就業規則上他に何ら解雇条項はなく、西田ら三名がいずれも右解雇事由に該当しないことは明かであるのみならず、就業規則においては右のように何らシヨツプ制による解雇を認めていないのであるから、会社が電労の労働協約第四条のみに則り、西田ら三名に対してシヨツプ制による解雇をしたことは、結局会社において、自らが定めた就業規則上の解雇制限規定に違反したものであり、その解雇は無効であるといわなければならない。蓋し、二重加入者である西田ら三名は、会社と電労との間の労働協約及び会社の就業規則の双方にそれぞれ規定されてある解雇事由をともに充足しない限り、到底解雇されない筋合であると解されるからである。

(三)  仮に西田ら三名が二重加入者ではなくして電労のみの組合員であつたとしても、次の各事由によつて矢張り本件解雇は無効であるといわなければならない。即ち、先ず西田ら三名は電労から脱退した事実が何らないのである換言すると、電労規約第七四条には、「この組合から脱退するときは、その理由を決められた書式により、支部執行委員会を通じて本部執行委員長に申出る。」、同じく第七五条には、「本部執行委員長は加入又は脱退の申告を受けたときは本部執行委員会にかけてきめる。」とそれぞれ規定されているのであるが、三名においては右所定の脱退手続を何ら履践したことがないから、同人らを目して電労から脱退した者であるということができないわけである。従つて会社が電労との労働協約上の前記シヨツプ条項に基き三名を解雇することは許されないところである。然しながら次に、仮に同人らが電労から脱退した者と看做されるとしても、同人らはいずれも会社と電労との労働協約第四条第二項但書に所謂「特殊な事情のある者」に該るものであるから、三名を解雇するに先だち、会社は先ず電労と協議をして同人らを解雇しなくて済むように接衝すべきものであり、若し協議の結果それが不調に帰し電労が飽く迄同人らの解雇を要求したとしても、会社において自らその最終的な人事決定権を保持ている以上、会社としては同人らをそれぞれ右但書の適用者として認めその解雇を拒むべきことは当然である。そもそも、西田ら三名は該労働協約締結以前から会社に雇傭されていた古参の従業員であるだけではなく、一方においては、電産結成以来のその組合員であつたところ、偶々その分裂に当り電労に一時的に加入していたが、その後電労を脱退して再び電産に復帰した者でもあるから、まさに右条項にいう「特殊な事情のある者」に該ることはいささかの疑問もない。いはんや現に会社においては、昭和二九年六月二六日になされた電産との団体交渉の席上で、電産に対し、右に所謂「特殊な事情のある者」の意味、解釈について、「(1)電労とユニオン・シヨツプを締結する際、会社は、現実に電産が存在していることを確認しているので、ユニオン・シヨツプの故を以て電産組合員を解雇しない。(2)分裂の事態については、個々の場合にその都度判断しないと明確な結論は出ないが、原則としては分裂即脱退とみなし得ない場合もあり、要するに個々の場合の判断による。(3)電労又は電産から脱退し、何れの組合にも加入しない場合は、電労とのユニオン・シヨツプに関連し、原則としては解雇されるが、会社としては電労と協議して解雇しない方向え持つて行きたいと考える。」という見解を文書でもつて表明し確認しているのであるから、その第三項の趣旨からして、電労を脱退して電産に加入した西田ら三名が「特殊な事情のある者」に該ることは会社において自認するところである。然るに会社が西田ら三名について右条項但書の適用を否定し、電労と何らの協議をもすることなく、たやすく電労の解雇要求に応じて三名を解雇したことは、本来解雇すべからざる者を解雇したことになるわけであつて、その解雇は無効であるといわなければならない。

(四)  仮に西田ら三名が右但書の適用をうけることができない電労の脱退者であるとしても、会社と電労との間の労働協約第四条のシヨツプ条項の効力は、電産に復帰した西田ら三名に対する限り当然及ばないものであるから、会社が同条に基き同人らを解雇することは許されないところである。即ち、既に述べたように、電産の分裂によつて新たに第二組合である電労が結成され、会社の従業員の大半が電労の組合員となつたのであるが、その結果、会社内に少数者組合である第一組合の電産と多数者組合である第二組合の電労が対立併存するようになつたわけである。そのような場合において、会社が電労と労働協約を締結しユニオン・シヨツプ条項を定めたとしても、憲法第二八条の保障がある限り、電産の既得の団結権を侵害することが許されないことは当然である。従つて、会社がそのシヨツプ条項に基き電産の組合員を解雇することができないことは自明であるが、電労を脱退して再び電産に復帰加入した者に対しても、その条項によつて解雇をすることはできないものと解さなければならない。蓋し、電産の団結権それ自体が保障されるべきものである以上、曽つて電産に所属していた者が、軽挙妄動して何ら深い思慮を払うこともなくたやすく電労に加入しその組合員となつた場合において、その者に対して再考慮を促し再び電産に復帰するように勧奨することは、電産の有する団結権の一作用であるというべきであり、その作用もまた当然保障されなければならないからである。そうすると、その作用の結果、西田ら三名が電産に復帰するため電労を脱退することになるとしても、それを捉えてシヨツプ条項により同人らを解雇することができないことは明白である。以上はその保障された団結権に基く電産の組織、活動の自由を根拠とするものであるが、他面において、本件のような事情の下においては、右シヨツプ条項の締結後と雖も、西田ら三名の所属組合選択の自由は失われないものと解すべきである。蓋し、同人らも亦憲法上保障されている団結権をそれぞれ保有しているのであつて、右の自由も団結権の一内容であるからである。従つて、同人らにその自由のある限り、同人らが電労に対し幻滅を感じたため、電労を脱退して以前の所属組合である電産に復帰することは、何ら差支のないことであつて、そのことを以てシヨツプ条項による解雇をすることができると考えることは許されない。いずれにしても、西田ら三名が電産に復帰するために必然的な過程として電労を脱退したものである以上、同人らに対して右シヨツプ条項を適用することはできないわけであるからその条項に基いて同人らを解雇することはできず、その解雇が無効であることは明白である。

(五)仮に西田ら三名に対して右シヨツプ条項の効力が及ぶとしても、同人らに対する本件解雇は、実質的に考えると会社の電産及び西田ら三名に対する不当労働行為であるから、その解雇は無効である。元来、電労は、会社が全国的な単一組合である電産を弱体化させることを意図して育成した企業別組織の労働組合であつて、会社の不当労働行為によつて結成された御用組合なのである。そして、電労は、電産の組合員であつた者が集団的に脱退した上結成したものであるが、当時会社と電産との間には労働協約が締結されており、その第四条には、「(1)会社は、組合が電気事業における唯一の全国的単一労働組合であることを確認する。(2)会社は、従業員であつて組合に加入しない者、組合を脱退した者及び組合から除名された者は、これを解雇する。但し組合から除名された者であつて、その解雇によつて会社の業務に重大な支障をきたす者の措置については、会社は組合と協議する。というユニオン・シヨツプ条項が規定されていたにも拘らず、会社においては、電産を脱退して電労の結成を計つたそれらの者を何ら解雇することなく、あえて電産に対する債務不履行をなしつゝむしろそれら脱退者によつて結成された電労を積極的に育成強化することに努めたのである。そうすると、その場合との比較均衡上、本件の場合においても西田ら三名を解雇しないことが当然であるにも拘らず、強いて同人らを解雇した所以は、会社が電労と電産に対してその取扱を異にし、電産及び西田ら三名を不当に差別待遇したものというべきである。更に会社においては、電労との労働協約上のシヨツプ条項の存在にも拘らず、「電労から脱退して電産に加入しない者については、電労と協議の上、解雇しない方向え持つていきたい。」との見解乃至希望を持つていることは、前記のとおりであるところ、電産に加入しない電労脱退者の如きは、特に保障しなければならない団結権というものを何ら有していないにも拘らず、それに対するシヨツプ条項の適用を否定しようと努め、その反面において電労を脱退し電産に加入した西田ら三名に対してその条項の適用をたやすく肯定することは、偶々同人らが電産に加入したという事実に因り、同人らを差別待遇するものといわなければならない。殊に同人らが電産に加入することによつて、充分に尊重されなければならない団結権を既に顕現している以上、右シヨツプ条項の存在を奇貨としてたやすく同人らを解雇することは、許されないものであり、その解雇が会社の不当労働行為と認められるべきことは論をまたないところである。以上の各点を綜合して考えると、会社は電労の育成、強化を積極的に熱望するとともに、その反面において電産をいたく敵視しその組織の弱体化を念願していることが明かであり、電労との間のシヨツプ条項の適用に関しても、電労から組合員の脱退が一応電労の弱体化をもたらすものであるにしても、それが直ちに電産の強化とならないような場合においては兎も角、電労の弱体化が直ちに電産の強力化をきたすような本件の場合においては、断固としてその条項を適用し、当該本人を解雇するという態度を示しているわけである。この意味において、会社のなした本件解雇は、西田ら三名については同人らが電産の組合員であるが故に差別待遇をなしたものであり、且つ、電産に対してはその業務の運営、即ちその組織活動について支配介入をなしたものであつて、前者は労働組合法第七条第一号に、後者は同法条第三号にそれぞれ該当する不当労働行為となるわけである。従つて、本件解雇は、形式的にみれば単なるシヨツプ制による解雇という外観を呈しているけれども、これを実質的にみると、会社が電産及び西田ら三名に対してその団結権を侵害し、或いは差別待遇を計つたところの不当労働行為による解雇であるから、それが無効であることも亦明白である。

(六)  尚、仮に西田ら三名に対する解雇が会社の不当労働行為ではないとしても、縷々前述したような事情のある本件の事態において、電労が会社に対し前記シヨツプ条項の存在を楯として西田ら三名の解雇を要求することは、労働者相互の間において遵守すべき信義誠実の原則に反するものであり、到底許さるべきものではない。蓋し、電労自身が、曽つて電産から脱退することに因りひとたびは労働者の団結をいたく弱体化せしめた者らによつて組織運営されている組合である以上、現在において今更労働者の団結の強化を高調してそのような解雇要求ができる筋合ではないからである。従つて、電労の解雇要求の意思表示は何らその効がなく、ひいてはその要求を容れてなされた会社の西田ら三名に対する解雇も亦無効でなければならない。

第四、以上順次予備的に述べた各理由によつて、会社の西田ら三名に対する解雇はいずれも無効であるので、電産及び西田ら三名はそれぞれ会社に対して追つて本件解雇の無効確認請求訴訟を提起するつもりではあるが、その本案判決が確定するまでの間において、会社と西田ら三名との間に雇傭関係が継続しているにも拘らず、その雇傭関係が終了したものとして取扱はれることは、同人らにとつて著しい損害を蒙らしめるわけである。蓋し、同人らは現代社会における所謂賃金労働者であつて、いずれも労働力を他に提供することをもつて唯一の生活手段とするものであるところ、現下の社会経済事情下においては、労働者が一旦離職すれば他に就職する機会を得ることは極めて困難であり、失職者が直ちに生活に困窮することは自明の理である以上、西田ら三名についても、右本案訴訟において勝訴するまでの間仮に会社の従業員である地位を取得せしめておくことは、同人らが受けるべき著しい損害を避けるために極めて必要であるといわなければならない。もつとも、同人らはいずれも現在電産の身分保障規定の適用をうけ、会社在職中と略々同一の金銭的給付を電産からうけているけれども、その保障は他に保障をうけるべき組合員が続出した場合においては、大巾に減額される性質のものであるのみでなく、若し西田ら三名が解雇された者として取扱れるときは、同人らにおいて、会社従業員なるが故に利用することができる健康保険をも全く利用することができず、又、申請人水与の如きは現在会社から貸与をうけている社宅の使用も不可能となるなど甚しい損失を蒙ることになるから、同人らが右保障を電産からうけていることは、本件仮処分の必要性をいささかでも減ずるような性質をもつものではない。よつて茲に申請人らは、それぞれ前記解雇無効確認訴訟の本案判決確定に至るまで、西田ら三名に対して仮に会社の従業員たる地位を与えてもらうべく、本件仮の地位を定める仮処分を申請するに及んだ次第である。」と述べ、

尚、被告の答弁中、申請人電産について当事者適格がない旨の主張に対し、「電産は本件仮処分申請について当事者適格を有しているのである。即ち、本件仮処分の本案となるべき訴訟は、組合員の解雇無効確認請求訴訟であるが、確認の訴においては、給付の訴と異なり訴訟物たる権利又は法律関係の当事者でなくても、いやしくもこれが存否を確定する利益、所謂確認の利益を有する場合には当事者適格があるわけである。本件においては、会社のなした本件解雇が一面において西田ら三名に対し電産の組合員である故をもつて差別待遇をしたものとして労働組合法第七条第一号の不当労働行為を構成するとともに、他面において電産の業務運営(組織活動)に支配介入したものとして同法条第三号の不当労働行為をも構成しているのである。換言すると、本件解雇によつて電産の団結権(組織活動の自由)が侵害されたわけである。そうとすると、電産としては、それを回復する方途がなければなならないのであつて、労働委員会に救済の申立をすることも、又、不法行為として裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することもそれぞれ一つの手段ではあるけれども、更に直接的に侵害者に対して侵害の排除を請求することが許されなければならない。組合員が不当労働行為によつて解雇されたにも拘らず、組合が自らの名においてその無効確認請求訴訟の提起をすることもできず、その結果生ずべき組合の弱体化を坐視しなければならないことは、いやしくも団結権が一個の権利として認められている以上あり得べからざることである。そのような場合は、組合は当然その団結権に基く妨害排除請求権の行使によつて、解雇無効確認請求訴訟を提起できるものといはなければならない。この意味において、電産は本件仮処分の本案である解雇無効確認訴訟を追行するについて直接的且つ具体的な利益を有しているから、該訴訟について当事者適格を具備しているわけである。それのみならず、更に電産は、組合規約第七〇条において、「この組合は、組合員と電気事業連合会、北海道電力株式会社、東北電力株式会社、東京電力株式会社、中部電力株式会社、北陸電力株式会社、関西電力株式会社、中国電力株式会社、四国電力株式会社、九州電力株式会社(以下九電力株式会社という)、黒部川電力株式会社、財団法人電力中央研究所、又は第三者との訴訟、調停、申立、申請、その他一切の裁判上、裁判外の紛争につき、組合員の利益を擁護するため、組合の名において電気事業連合会、九電力会社、黒部川電力株式会社、財団法人電力中央研究所、又は第三者に対しその組合員の権利を行使することができる。但しその組合員が反対の意思表示をしたときはこの限りでない。」旨を規定しているのであつて、これは事実上自治的法規として法規範を設定しているわけであり、本件において西田ら三名は何ら反対の意思表示をしていないから同人らは組合に対して所謂任意的訴訟信託をしているのである。そして、この種の信託は特別の必要があるときは許容されるものであり、組合と組合員との関係における限り、特別の必要があることは上来の説明によつて明かである。よつて、電産が本件仮処分の本案である解雇無効確認請求訴訟について当事者適格を有し、且つ、右のような任意的訴訟信託をも西田ら三名からうけている以上、本件仮処分申請についても電産に当事者適格があることは勿論である。」と述べた。

(疎明省略)

被申請人代理人は、「申請人らの申請をいずれも却下する。」との裁判を求め、答弁として、

「申請人らの主張事実中、申請理由第一の内、被申請人会社が申請人主張のような会社であり、又西田ら三名が申請人ら主張のような者であること、及び電産が日本国内における電気産業に従事する労働者でもつて組織する労働組合であることはいずれも認めるが、その余の点は否認する。申請理由第二の事実はすべて認める。申請理由第三の(一)の内、西田ら三名が電産の分裂に際し、いずれも電産高知県支部安芸分会に対して脱退届を提出し、電労の設立趣意書にそれぞれ記名押印したこと、その後同人らがいずれも電産に組合費を納入することなく、専ら電労に対して所定の組合費を納入し、電労の組合大会又は職場大会に参加し、電労の機関紙を閲読し、浜渦が昭和二八年に、西田が昭和二九年にそれぞれ電労傘下の執行委員に就任したこと、西田ら三名が申請人ら主張の日にそれぞれ前記脱退届の撤回を口頭又は文書でもつて電産に申入れ、電産がそれを承認したこと、及び電産規約第七二条第七三条、電労規約第七三条第七五条にそれぞれ申請人ら主張のとおりの規定があり、西田ら三名がいずれもその所定の手続を履践したことのないことはいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。西田ら三名は曽つて電産の組合員であつたが、電産の分裂の結果電労が結成せられるや、直ちに電産を脱退して電労に加入し、電労組合員として活動を続けたものである。そのことは、同人らの右行状自体から明白であつて、同人らが電産又は電労の規約に定めている脱退又は加入の手続を特に履践しなかつたことは、右事実について何らの影響を及ぼすものではない。同じく第三の(二)の内、会社の就業規則第七三条第七四条にそれぞれ申請人ら主張のような規定があることは認めるが、その余の点は否認する。西田ら三名は申請人ら主張のように電産と電労との両組合に二重加入していた者ではないのであるが、仮に同人らが二重加入者であつたとしても、電労の組合員である限りにおいて、会社と電労との間の労働協約上の解雇条項のみによつて解雇することができることは勿論であり、就業規則上の解雇制限規定は本件の場合においては全く適用の余地がないものである。第三の(三)の内、電労規約第七四条第七五条に申請人ら主張のような規定があり、西田ら三名がその所定の脱退手続をしていないこと、西田ら三名が会社と電労とが労働協約を締結する以前から会社に雇傭されていた古参の従業員であり、又両人らが電産結成以来その組合員であつたところ、電産の分裂によつて電労に加入し、その後電労を脱退して電産に復帰した者であること、及び会社が申請人ら主張の日時、場所において、電産に対し所謂「特殊な事情のある者」の意味について、申請人ら主張のような見解を文書でもつて表明したことはいずれも認めるがその余は否認する。西田ら三名は電労規約所定の脱退手続を履践しなかつたけれども、電労から脱退するに当り、いずれも脱退声明書を発表した上、電産に加入したわけであるから、電労を脱退した者といつて何ら差支ないわけである。又所謂「特殊な事情のある者」の解釈については、協約締結当時会社及び電労の間において何らの了解事項もなく確定していなかつたところ、昭和二九年七月一六日、会社と電労との間において、それは「協約締結当時から電産の組合員である者」に限る旨の明確な諒解が成立したのであり、従つて、それは電産の分裂に当り電産に残留し電労に加入しなかつた者のみを指すわけであるから、西田ら三名はそれに該当しないことが明かである。

尚、会社が電産に対して示した前記見解は、電産との団体交渉の過程においてなされた一つの見解に過ぎず、その第三項はその後会社において撤回しているのみならず、西田ら三名の本件解雇については、電労の解雇要求に基き、会社が種々調査の結果その要求を正当と認めて解雇したわけであるから、同人らの解雇については、会社と電労との意思が全く合致し、別段何ら協議をする余地のないものである。第三の(四)の内、電労が会社の従業員の大半をその組合員とする多数者組合であり、電産が少数者組合であつて、両組合が会社内において対立併存していることは認めるが、その余は争う。会社が多数者組合である電労とユニオン・シヨツプ条項を締結した場合において、少数者組合である電産の組合員をその条項によつて解雇することは兎も角として、少なくとも電労から脱退した者に対しては、その者が電産に加入すると否とを問はず、当然その条項の適用があり、解雇の対象となり得ることは、ユニオン・シヨツプ条項が法認されている以上何らの疑問もないといわなければならない。殊に、本件における西田ら三名の如きは、併存する両組名の間を転々として移動し、労働者の団結を甚だしく弛緩せしめるものであつて、特に右条項の適用を否定してその保護を計るに値するものであるということはできないのである。第三の(五)の内、電産が分裂して電労が結成された当時、会社と電産との間に労働協約が締結されており、その第四条に申請人ら主張のようなユニオン・シヨツプ条項が規定されていたことは認めるが、その余はすべて争う。会社が電労を育成強化したことは絶えてない。又、電産を脱退して電労を結成しようとした者らに対して、会社が電産とのユニオン・シヨツプ条項に基き解雇するという処置をとらなかつたわけは、それが数千名に及ぶ集団的脱退であつて、所謂分裂と看做すべき事態であつたから、当然右シヨツプ条項を適用することの許されない場合であつたために過ぎない。そして、本件解雇は西田ら三名が電産に加入したことに因つてなされたものではなく、唯単に同人らが電労を脱退したという事実に因つて必然的になされたものに過ぎない。換言すると、会社は電労に対してその労働協約上の義務の履行としてやむを得ず同人らを解雇したわけであつて、それが他面において同人らや電産に対し不当労働行為を構成するなどということは、到底あり得べき筈のものではないといわなければならない。第三の(六)の内、電労がシヨツプ条項に基き会社に対して西田ら三名の解雇を要求し、会社がその要求を容れて同人らを解雇したことは認めるが、その余は争う。申請理由第四の内、西田ら三名が所謂賃金労働者としての社会的階層に属すること、及び同人らがいずれも現在電産の身分保障規定の適用をうけ、会社在職中と略々同一の金銭的給付を電産からうけていることはいずれも認めるが、その余は争う。同人らが右金銭的保障を現にうけている限り、本件仮処分の必要性は全く欠如しているというべきである。若し仮に右保障の金額が減額される恐れがあるものとしても、それが現実に減額され同人らの生存が危殆に瀕したときに始めて本件仮処分の必要性が生じてくるものといわなければならないから、現在においては、その必要性のないことは明白である。

尚、電産については、そもそも本件仮処分申請について当事者適格を有しないのである。蓋し、本件仮処分の本案たるべき訴訟は、西田ら三名の解雇無効確認請求訴訟であつて、それは会社と同人らとの間に雇傭関係が存続していることの確認を求めるものに外ならないから、その点に関する限り、電産は法律上局外者であつて何らの処分権をも有しないからである。凡そ、労働者が労働契約の存続を前提として使用者に対しその契約の履行を求める裁判上の請求は、権利の当事者である労働者各個において自らなすことが必要であつて、特別の規定のない現行法制下において、第三者である労働組合がこれに干渉することのできないことは当然である。この意味において、組合が組合員個々の労働契約上の権利に基き、使用者に対して給付の訴を提起することのできないことは極めて明白であるが、それが確認の訴である場合であつても何ら相違するところがないのである。蓋し、若し仮に確認の訴に関する限り、組合においても提起できるものとすると、恰も本件の如く、確認の訴を本案として、その内容が殆んど給付の訴と同様な結果をもたらす仮の地位を定める仮処分を申請することができることとなり、極めて不合理な事態を惹起するからである。或いは、電産は本件解雇が電産自身に対する不当労働行為であるから自らもまた当事者適格がある旨主張しているようであるが、使用者がなした組合員の解雇は、唯単に当該組合員個人に対する行為であるに止まり、法律上何ら組合自身の権利に対する侵害乃至攻撃と目すべきものではない。従つて、そのような場合に、組合がいきなり使用者に対して団結権なるものの侵害であると称し、私法上の妨害排除請求のようなことをなし得るものではなく、そもそも、団結権なるものが憲法及び労働組合法によつて規定せられ、その範囲内において存在するに過ぎないいはば公法的な権利である以上、組合がなし得ることは、唯労働組合法によつて与えられている権利を同法の認める手段方法によつて実行することのみに限られるわけである。そうすると、電産は本件解雇について事実上利害関係を感ずるかも知れないけれども、その範囲においては、電産が西田ら三名の追行する訴訟を事実上援助することによつて充分その目的を達することができるし、又、本件解雇が組合の業務運営に対する支配介入であると思料するなれば、その面において労働委員会に対して適当な救済の申立をなし、或いは裁判所に対して損害賠償請求訴訟の如きものを提出すれば足るわけであつて、あえて自ら解雇無効確認請求訴訟の当事者として表面に出てくる必要はない。仮に電産が右訴訟の当事者となり得るものであつて、それについて勝訴判決を得たとしても、それは飽くまで会社と電産との間においてその解雇が無効であることを確定するに止まり、その既判力を西田ら三名に及ぼすことができないから、同人らにおいても又電産においても、その判決を前提として会社に対し同人らとの労働契約上の義務の履行を求めることはできず、結局解雇された労働者を救済し不当労働行為を排除する目的を達することができないのみならず、かえつてこのことによつて同一の雇傭関係について異る内容の判決を競合させる恐れもあり、無用に法律関係を錯雑にさせるのみである。従つて、電産は西田ら三名に対する解雇の無効確認請求訴訟について当事者適格を欠ぐものというべく、ひいてはそれを本案とする本件仮処分申請についても当事者適格を有しないことは論をまたない。以上のとおりであるから、申請人らの本件仮処分申請は、いずれも不適法又は失当としてそれぞれ却下を免れないものである。」と述べた。

(疎明省略)

理由

被申請人会社が高松市七番丁五六番地の一に本店を置き四国四県下の各地に対して電力を供給する事業などを営む株式会社であり、申請人西田、同浜渦、同水嶼らがいずれも被申請人会社に雇傭されていた従業員であつて、西田及び浜渦がともに同会社高知支店安芸営業所田野散宿所に、水嶼が同会社高知支店田野変電所にそれぞれ勤務していた者であること、申請人電産が日本国内における電気産業に従事する労働者でもつて組織する労働組合であつて、曽つては被申請人会社の従業員が所属する唯一の組合であつたところ、昭和二八年七月頃その四国地方本部傘下に分裂現象が起り、被申請人会社の従業員であるその組合員の一部によつて同年八月一三日電労が結成せられたこと、被申請人会社と電労との間において昭和二九年四月一日労働協約が締結され、その第四条には、「(1)会社は、組合が会社の従業員をもつて組織する唯一の労働組合であり、従業員の労働条件その他待遇に関し、交渉権を有する団体であることを確認する。(2)会社は、従業員であつて組合に加入しない者、組合を脱退した者及び組合から除名された者は、これを解雇する。但し、会社の業務に重大な支障をきたす者及び特殊な事情のある者の解雇については、会社は、組合と協議する。」という所謂ユニオン・シヨツプ条項が規定されていること、及び被申請人会社が申請人西田、同浜渦、同水嶼に対しそれぞれ昭和二九年八月二四日附書面を以て、「電労との労働協約第四条第二項本文により解職する。」旨を通告し、同人らをいずれも解雇したが、それは、被申請人会社において、西田ら三名が電労の組合員であつたにも拘らず電労を脱退して電産に加入したものと思料したことに因るものであることはいずれも当事者間において争がない。

申請人らが申請している本件仮処分の内容は、被申請人会社が西田ら三名に対してなした右解雇が無効であることを前提として、その無効確認請求訴訟の本案判決が確定するに至るまで、西田ら三名について仮に被申請人会社の従業員たる地位を与えようとするものであるが、被申請人においては、電産は本件仮処分申請について当事者適格を有しない旨主張するから、先ずこの点について考えてみよう。本件仮処分の本案となるべき訴訟が、西田ら三名に関する解雇無効確認請求訴訟であることは、申請人らの主張によつて明かであるところ、電産がその本案訴訟について当事者適格を有する限り、本件仮処分申請についても亦適格を有すべきことは当然であるから、果して電産に右訴訟の当事者適格があるか否かについて判断する。電産においては西田ら三名がその所属組合員であることを主張しているからそれを前提とすべきところ、およそ労働組合がその組合員に関する解雇無効確認請求訴訟を提起する場合において、組合に当事者適格があるか否かについては場合を分つて考えなければならない。先ず、組合が解雇された組合員の利益を擁護するため組合員に属する権利を組合員に代つて行使し、自らが当事者としてその解雇無効の確認を請求する場合においては特別の事情のない限り、組合に当事者適格を認めることができない。蓋し、解雇無効確認訴訟は、使用者と被解雇者との間になお雇傭関係の存続していることの確認を求めるものに外ならないところ、組合としてはその雇傭関係について何ら処分権を有しているわけでもなく、現行法制下においては、紛争のある当該権利又は法律関係の当事者以外の者に対して、その当事者に代り紛争解決のための訴訟を提起し追行することのできる権能を認めるのは、特別の規定がある場合に限られるのであり、右のような訴訟の場合に、組合に対してその訴訟追行権を認容している規定は現在のところ何ら存在しないからである。もつとも、労働組合が、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織せられた団体であり、組合員の利益を擁護するために集団としての力を傾注することを主たる任務とするものであることは、労働組合法の規定に照らして明かであるが、組合がその使命を達成するために活動する本来の部面は、対使用者その他の社会的経済的分野における実力角逐の舞台の範囲内であるに止まり、その範囲外である公的技術的な性質を有する訴訟の部面にまでその活動の権限が及ぶものではないといわなければならない。換言すると、力関係が優位を占める社会的経済的生活部面においては、使用者に対して一般的に弱者たる地位にある労働者の利益を擁護するために、当該労働者に代つて組合が積極的に自らの名において使用者に交渉することが認められるのは当然であるけれども、力関係が何ら支配することなく、只管法理に基き訴訟技術の運用によつて勝敗の決する訴訟の世界においては、紛争権利又は法律関係の当事者である組合員自らが訴訟を追行するとしても事実上何らの不利益を蒙るわけではないから、特に組合に対して当事者適格を認めなければならないとする必要は全くない。そして、仮に組合に当事者適格を認めるとしても、解雇無効確認訴訟における勝訴判決の既判力は、その訴訟の当事者である組合と使用者とについて生ずるのみであつて、被解雇者については生ずる余地がないから、その判決によつては被解雇者が復職することもできず、結局組合としても、当該組合員の利益を擁護するという頭初の目的を達成することができない結果とならざるを得ないわけである。この意味において、組合が組合員の利益を擁護するため組合員に代つて右のような訴訟を提起することは、通常の場合当事者適格を欠ぐものといわなければならない。しかしながら、申請人らは、本件において申請人西田ら三名が申請人組合に対して右訴訟につき任意的訴訟信託をしているから、申請人組合は当事者適格を有する旨主張するので更にこの点について考えると、現行法制下においても、特別な必要のある場合には民事訴訟について所謂任意的訴訟信託をすることが可能であり有効であると解するを相当とするところ、甲第一号証によると、電産の組合規約第七〇条の規定により、電産の組合員は、被申請人会社に対する自らの訴訟につき、反対の意思表示をした場合を除き、すべて電産に対して任意的な訴訟信託をしていることを認めることができる。そして、組合の使命、任務が前記のような性質のものである以上、組合員が組合に対してその使用者との間の訴訟につき任意的訴訟信託をすることは、特別な必要がある場合に該るものということができるのであつて、組合とその所属組合員という密接な依存関係、換言すると集団とその構成分子といういはば不即不離の一体関係がある限り、信託法第一一条に規定する訴訟行為をなさしむることを主たる目的としてなす信託の禁止、或いは民事訴訟法上の弁護士代理の原則などの立法の趣旨に特に抵触するわけでもなく、それらの諸規定によつて抑制に努めている弊害を発生するおそれは何らないと考えられるから、組合員の組合に対する右のような訴訟信託は何ら妨げなく、それによつてその訴訟につき組合が当事者適格を有するに至ることは勿論である。なおその際においては、その判決の既判力が信託者たる当該組合員と使用者との間において生ずるわけであるから、組合員の利益を擁護するという目的も直接的に達成することができる結果となるわけである。しかしながら本件について考えてみると、電産は被解雇者たる西田ら三名と共同原告になつているのであるから、西田ら三名が電産に対して特に本件について訴訟信託をなした旨の信託書が裁判所に対して提出されていない事実にも照らし合せて判断すると、同人らは電産に対して訴訟信託をするにつき反対の意思表示をなしているもの、即ち、自ら訴訟を追行する決意を有し、組合に対しては信託することを拒んだものであると考えざるを得ない。しかもなお仮に同人らが電産に対して真実に訴訟信託をしたものであるとすれば、本件においては、受託者と信託者がともに当事者として訴訟に関与しているわけであるから、二重訴訟とならざるを得ず、この点からしても同人らが電産に対して本件につき訴訟信託をしたものであるとは到底考えることができない。従つて電産が西田ら三名の利益を擁護するために本件仮処分申請に及んだものであるとする限り、電産に当事者適格のないことは明かである。次に組合員の解雇が使用者の不当労働行為による組合自身の団結権に対する侵害であり、組合が自らの権益を擁護するために、その解雇無効確認訴訟を提起する場合については、以上の場合と稍々その事情を異にするものといわなければならない。即ち、当該組合員がその解雇により当然組合員としての地位を失い、組合から脱落せざるを得ないような場合においては、組合は右訴訟について当事者適格を有するものとしなければならない。蓋し、組合が労働者の集団であり、その所属組合員の数の大小が組合の力の強弱を左右する要素の一であることが明かである以上、使用者の不当労働行為による解雇によつて組合員数が次第に減少し、そのため組合の団結が弱化動揺する結果を惹起するような場合に、組合が拱手傍観して何らその防止に努めることができないという法はない。その際、組合は労働委員会に対して救済の申立をするなどの方途もあるけれども、組合としての団結権が既に充分法認されている以上、その侵害に対処して更に直接的な救済方法として解雇無効確認訴訟の提起を認むべきは当然である。この訴訟の判決の既判力は既に述べたように被解雇者に対しては及ばないけれども、この種の裁判上の請求が組合としてその団結権侵害に対し対使用者間において講じ得べき最も有効適切な手段であることは疑う余地がなく、組合がその点について所謂確認の利益を有していることは勿論、他日使用者に対して不法行為を理由として損害賠償請求訴訟を提起するような場合においては、その前提としてこの訴訟の勝訴判決の既判力を直ちに利用することができるわけであるから、解雇が組合員資格を喪失させるときに限り、その解雇無効確認訴訟につき組合が当事者適格を有するものというべきである。これに反して、その解雇が何ら組合員としての資格、地位に変動を生ぜしめない場合においては、組合に当事者適格を認めるべきでない。蓋し、その解雇により組合員の数にも何らの変更がなく組合としては、特定の組合員が現に就業しているか否かという問題に過ぎないわけであるから、仮にそれが不当労働行為による解雇であつて、事実上組合の団結権を侵害する結果をきたす恐れのあるものであつたとしても、組合自らが当事者となつてその解雇の無効確認訴訟を提起することができるとなすまでの影響甚大な緊要事であると考えることができないからである。そして、本件においては、甲第一号証によると、電産は電気事業に従事する労働者で組織するものではあるが、自己の意志によらないで電気事業に従事しなくなつた労働者も引続き組合員としてとどまることができるものであることを認めることができ、解雇された組合員は当然に組合員資格を失うわけのものではなく、現に電産は西田ら三名を引続き電産の組合員としてその組織の統制下におき、その身分保障規定に基き同人らに対して金銭的保障を継続していることは当事者間に争のないところである。そうすると電産自身としては、本件解雇がなされた結果として、唯単にその組合員である西田ら三名が、従来就業していた被申請人会社から解雇されたためその後失業しているという事実が生起したに止まり、組合員数が減少したわけでもなければ、団結それ自体が弱化又は弛緩したという結果を来したわけでもない。従つて、このような場合においては、電産は、組合員たる西田ら三名が提起する解雇無効確認請求訴訟を側面的に事実上援助し、その訴訟費用を支出したり、或いは訴訟技術について指示教導したりするなどの方策を講じて、同人らの利益の擁護に努めるべきものであつて、自らが当事者となりその団結権侵害を理由として該訴訟を提起することはできないものといわなければならない。よつて電産は、本件の事情の下において、西田ら三名に対する解雇無効確認訴訟を提起するについて当事者適格をもたず、ひいてはそれを本案とする本件仮処分申請についてもまた当事者適格を有しないから、その申請は不適法としてこれを却下せざるを得ない。

そこで次に、申請人西田、同浜渦、同水嶼ら(以下単に申請人らという)の申請について、その理由があるか否かを考えてみよう。先ず、申請人らは、同人らは終始一貫電産の組合員であつて、未だ曽つて電労の組合員となつたことがない旨主張するのでこの点について考えてみると、西田ら三名が頭初においては電産の組合員であつたが、その分裂に当り、それぞれ電産高知県支部安芸分会に対して脱退届を提出するとともに、電労の設立趣意書に記名押印したものであること、同人らがその後いずれも、電産に対しては何ら組合費を納入せずして、専ら電労に対してのみその所定の組合費を納入し、電労の機関紙を閲読し、更には電労の組合大会又は職場大会に参加してきたこと、及び浜渦が昭和二八年に、西田が昭和二九年にそれぞれ電労傘下の執行委員に就任したことのあることがいずれも当事者間に争がなく、成立に争のない乙第六号証の一及び二、乙第一三号証の一乃至三に証人井川正輝、同伊東苞、同佐々木定、同西村久米治、同西岡登、同戒田数一の各証言及び申請人西田佐一郎、同浜渦亀治、同水嶼礼一各本人訊問の結果を綜合すると、電労は頭初その設立趣意書に記名押印した者をすべて電労に加入した組合員と看做し、それらの者によつて結成されたものであること、組合はそれぞれその組合費の徴収につき使用者に対し、使用者が各組合員に給料を支払う際に源泉徴収することを委任していたところ、電産と電労においてはその組合費の金額に相違があつたので、分裂直後である昭和二八年八月頃両組合においては協議の上、従業員をそれぞれ電産の組合員と電労の組合員とに裁然と二分し、相互にそれを確認してそれぞれの組合員名簿と各人に対する組合費の金額一覧表を使用者に提出したのであるが、その際西田ら三名は電労の組合員として確認され、爾来電労に対してのみその所定の組合費を納入してきたものであること、及び西田、浜渦らが電労傘下の執行委員に就任するに当つては、予め同人らがその同意を与えたものであつて、その後同人らが電労関係の各種大会に参加した場合の出張旅費については、それぞれ同人らより電労に対して支給方の申請をなした上その支払をうけてきたものであり、又水嶼も所属職場において電労の組合員として活溌に行動していたものであることをそれぞれ認めることができる。右認定に反する証人菅正三郎の証言の一部は措信することができないし、他に右認定を覆えすに足る資料はない。そうすると、西田ら三名は電産の分裂に伴つて電産を脱退し、新たに結成された電労に加入したものであるといわざるを得ないのであつて、同人らがいずれも電産規約所定の脱退手続をしなかつたことは当事者間に争のないところであるけれども、組合が分裂した本件の場合において右のような事実がある以上、そのような手続を履践していないことは同人らが電産を脱退したことについて何らの影響をも及ぼさないものというべく、又、同人らが電労規約所定の加入手続をしなかつたことも当事者間に争のないところであるが、組合の結成に際しその組合に加入しようとする者が、特にそのような手続をすることのできる余地のある筈もなく、右認定のような事実のある以上、同人らが電労の組合員となつたことは明白である。従つて、西田ら三名は、曽つて所属していた電産を脱退した上電労に加入したものであるというべきである。

又、申請人らは、仮に同人らが電労の組合員であつたとしても、同時に電産の組合員でもあつて、所謂二重加入者である旨主張するけれども、同人らが純然たる電労の組合員であつて二重加入者でないことは、右認定のとおりであるから、その点を前提として展開している申請人らの就業規則上の解雇制限規定違反の主張については、判断を加える必要をみない。

次に、申請人らは、同人らは電労からその後脱退したことがない旨主張し、同人らが電労規約所定の脱退手続をしていないことは当事者間に争のないところであるけれども、単にそのことのみによつてその点を判断することはできないところ、右認定のとおり一旦電労の組合員となつた西田ら二名が、昭和二九年七月一日に口頭で、同年八月一四日には文書でそれぞれ電産に対して同人らの前記脱退届を撤回する旨の届出をなし、電産がそれを承認したことは当事者間に争がなく、証人井川正輝の証言によつて真正に成立したと認める乙第一及び第二号証、成立に争のない乙第九号証に証人井川正輝、同伊東苞、同佐々木定、同西岡登、同戒田数一の各証言、及び申請人西田佐一郎、同浜渦亀治、同水嶼礼一各本人訊問の結果を綜合すると、申請人西田ら三名を含む電労安芸支部田野班に属する電労の組合員一三名が、昭和二九年八月一四日に電労脱退声明書を発するとともに、一方、電産に対しては脱退届の撤回届を提出したものであること、電労としては、事の意外なるに驚き、種々説得して一三名の飜意に努めたが、同人らの脱退意思が固く、やむなく同月一六日右安芸支部においてはその脱退を確認し、次いで翌一七日電労の本部執行委員会もその脱退確認を決定し、同月一八日被申請会社に対して同人らの脱退を通告するに至つたこと、その脱退については当時新聞、ラヂオによつて広く報道せられ、電産においても、同月一七日電労に対して右一三名を電産の組合員として確認する旨を通告したこと、及び同月二〇日に至り申請人西田ら三名を除く一〇名の者が、電労の承諾を得て電労に復帰するに及んだので、電労としては、被申請人会社に対して当該一〇名について復帰の旨を通告するとともに、西田ら三名についてはシヨツプ条項による解雇方を強く要望し、会社としても独自の見地から調査の結果、矢張り同人らが電労を脱退したものであることを肯定し、同月二四日同人らを解雇するに至つたことをそれぞれ認めることができる。右認定に反する資料は何もない。そうすると、西田ら三名がその所属組合である電労から脱退したことは明白であつて、電労規約所定の脱退手続を同人らがしていないことなどは、その点の判断を左右するに足らないものであるといわなければならない。

又、申請人らは、同人らが会社と電労との間の労働協約第四条第二項但書に所謂「特殊な事情のある者」に該るものである旨主張するので考えてみると、右条項の規定により、会社は電労からの脱退者を原則として解雇すべきものであるが、会社の業務に重大な支障をきたす者及び特殊な事情のある者については、脱退者といえどもその解雇について組合と協議することができる余地のあること、及び会社が昭和二九年六月二六日になされた電産との団体交渉の席上において、電産に対し、右「特殊な事情のある者」の意味について、「電労又は電産から脱退し、何れの組合にも加入しない者は、電労とのユニオン・シヨツプに関連し。原則として解雇されるが、会社としては電労と協議して解雇しない方向え持つて行きたいと考える」旨の見解を文書で以て表明したことはいずれも当事者間に争がないが、それ以外に申請人らにおいてはその点に関して何ら立証するところがなく、一方証人井川正輝、同山口恒則の各証言を綜合すると、会社と電労との間においてはその「特殊な事情のある者」の意味について、協約締結当時には何ら一致した解釈を有していなかつたのであるが、昭和二九年七月頃両者の間において、それは「会社と電労が労働協約を締結した当時から引続き電産の組合員である者」のみを指すことに解釈を統一し、且つ、その頃会社は電産に対して曽つて会社が電産に対して表明しておいた前記見解の撤回方を申入れてこれを撤回したことを認めることができる。

そうすると、西田ら三名が右労働協約締結以前から会社に雇傭されていた古参の従業員であり、又、同人らが電産結成以来その組合員であつたところ、電産の分裂によつて電労に加入し、その後電労を脱退して電産に復帰した者であることが当事者間において争がないとしても、いやしくも同人らが会社と電労との間において解釈を統一させた右要件を具えない者である以上、右に所謂「特殊な事情のある者」に該らないことは当然である。蓋し、本件のような場合において、協約当事者の間で協約条項の解釈が統一されている以上、第三者がその解釈について異議を述べるということは何らの意味をも持ち得ないからである。

更に申請人らは、電労から脱退して電産に加入した申請人らに対しては、会社と電労との間の労働協約上のシヨツプ条項はその効力を及ぼすことができない旨主張するので進んでこの点について考えてみよう。電産が曽つて被申請人会社の従業員の所属する唯一の労働組合であつたところ、その後分裂により新たに電労が結成されたため、被申請人会社の内において両組合が併存するに至つたことは当事者間に争のないところである。そして、本件においては、電労が被申請人会社と労働協約を締結し所謂ユニオン・シヨツプ条項を約定したわけであるが。その場合におけるシヨツプ条項の効力が如何なる種類、範囲の者にまで及ぶかということは、極めて難しい問題である。そもそも、右シヨツプ条項締結の趣旨は締約組合の組織を強化し、その強大なる集団的統制力の下に対使用者との関係において組合の事実上の発言力を増大した上、労使関係における組合の優位を相対的に確保しようとするものであるから、その締結は一般的にいつて労働者にとつて甚だ有利であり。裨益するところが大であることは論をまたない。従つて、当該事業場に組合が一つしか存しない場合においてシヨツプ条項が締結されたときは、その組合に加入していない所謂未組織労働者に対してもその効力が及び、それらの者は相当期間内にその組合に加入しない限り解雇をうけてもやむを得ないものといわなければならない。蓋しそれら未組織労働者が右条項の適用をうけて蒙る不利益はたかだか団結しない自由を侵害されるに止まるのであつて、現在のような資本主義社会の下において、労働者に対し団結しない自由を認めそれを尊重しなければならない必要は存しないからである。殊に、労働組合法第七条第一号但書においては、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げない。」旨を規定し、所謂クローズド・シヨツプ条項乃至ユニオン・シヨツプ条項の有効性を確認している以上、少なくとも従業員の過半数が組合員となつている組合がシヨツプ条項を締結した場合においては、組合員以外の未組織労働者たる従業員に対してもその効力が及び、組合に対する加入強制をうけるべきことは格別疑問の余地がない。これに反して、締約組合以外に他の組合が同一事業場内に併存しているときは、その条項の効力は他の組合に加入している従業員に対しては及ばないものと解するを相当とする。蓋し、憲法第二八条においては、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」旨を規定して所謂勤労者の団結権、団体交渉権などの保障を宣言し、それを承けた労働組合法の諸規定が種々該権利の保護、育成に留意している以上、一組合がシヨツプ条項を締結したとしても、既に他の労働者においてそれぞれその団結権を行使して組合を結成しているときは、その条項を楯としてその団結を阻害することが許されないものといわなければならないからである。その場合、締約組合が仮に当該事業場の従業員の過半数を代表するものであつたとしても何ら相違するものではなく、矢張り、他の組合の組合員は、既に何人においても保障しなければならない団結をなしている反射的効果として、そのシヨツプ条項の効力をうけず、締約組合えの加入を強制されることにはならないといわなければならない。そこで本件において、締約組合である電労を脱退し他の組合である電産に加入した西田ら三名に対し電労のシヨツプ条項が及ぶか否かの点を考えるに、証人井川正輝の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一一号証に証人菅正三郎、同井川正輝、同佐瀬光徳の各証言を綜合すると、被申請人会社と電労がシヨツプ条項を締結した昭和二九年四月一日当時、被申請人会社の従業員総数約六、一〇〇名の内、電労の組合員数は約五、九五〇名、電産の組合員数は約一五〇名であつたことを認めることができる。そうすると、電労は被申請人会社内における従業員の過半数を代表する組合であつて、被申請人会社と締結したシヨツプ条項は電産の組合員以外の全従業員に対してその効力を及ぼすべきことは前記説明によつて明かである。従つて、西田ら三名も当然その適用をうけるものであつて、同人らがその所属組合である電労から脱退するときは、その条項により解雇されることは勿論であり、脱退と同時に電産に加入したとしてもその点に関する限り何ら影響をうけるものではない。蓋し、電産の組合員がその条項の適用をうけない所以は、偶々その締結当時既に同人らが憲法及び労働組合法により他の何人からも侵害することの許されない団結をしていたことによる反射的効果であつて、電産という名のいはば一定範囲内の治外法権的城郭に在住していたことによるものではないからである。換言すると、電産の支配する領域内にはシヨツプ条項の効力が及ばないというわけではなく、条項締結当時既に完成されていた団結という既成事実に対してその効力が及ばないというに過ぎない。従つて、その締結後において、被申請人会社に雇傭された従業員が電労に加入せずして電産に加入し、その支配下に吸収された場合は勿論、本件における西田ら三名のように、曽つて電産の組合員であつた者が再び電産の支配下に復帰する場合においても、それぞれいずれも条項締結当時電産の組合員ではなかつた意味において、等しくシヨツプ条項の効力をうけて解雇されるに至るものと解するを相当とする。この見地にたてば、電産は。その組合員の死亡、退職によつて早晩その事業場から排除されるのやむなきに至るわけであるが、本来、シヨツプ条項締結の趣旨が一事業場内におけるすべての労働力を単一の労働組合が統制することを最大の目的とするものである以上、右のような事態を生ずることは、条項締結に伴つて当然予期されている必然的な結果であると解せざるを得ない。以上の説示によつて、西田ら三名が会社と電労との間のシヨツプ条項の適用を免れないことは明かであるから、この点に関する申請人らの主張は採ることができない。

次に、申請人らは、同人らに対する本件解雇は、シヨツプ制に因る解雇に名をかりながら、実質的には電産及び同人らに対する被申請人会社の不当労働行為である旨主張するのでこの点について考えてみよう。およそ、シヨツプ制に因る解雇と不当労働行為とは、特別な事情のない限り、両立しないことは、労働組合法第七条第一号但書の規定に照らして明かであるから、本件において果してその点について特別な事情が存在するか否かについて判断する。申請人らにおいては、電労は被申請人会社が積極的に保護育成したいわゆる御用組合であると主張し、電労が御用組合である限り、その締結した労働協約その他は効力を生じないものというべきところ、成立に争のない甲第八号証の一乃至六、甲第一四号証の一及び二、甲第一五号証に証人菅正三郎、同野島弘司、同佐瀬光徳の各証言及び申請人西田佐一郎、同浜渦亀治、同水嶼礼一各本人訊問の結果を綜合すると、被申請人会社は電産に対し、電産が昭和二七年の終り頃になした争議の手段方法その他に関連してその後かなりの反感を抱いていたこと、そのため、会社としては、昭和二八年七月頃電産に分裂現象が起り、新たに企業別組織型態をとる電労が結成される気運が醸成されるや、その結成について好感をよせかなりの期待を抱いていたこと、電労はその結成に先だち予め電労えの参加希望者の署名を蒐集し、その署名者を組合員として結成されたものであるが、その署名蒐集当時、会社の従業員の間において電労に加入しないときは解雇されるかも知れない旨の噂がかなり汎く流布されていたこと、被申請人会社高知支店安芸営業所長西岡登が会社の従業員らと懇談したときに電労えの加入が得策である旨説明して加入を慫慂したこと、及び電労が結成されるや、電産傘下の各支部、分会がそれぞれ四国四県の地方労働委員会に対して、電労の結成は会社の不当労働行為によるものである旨の救済申立をなしたことをいずれも認めることができ、且つ、会社がその後電労とユニオン・シヨツプ条項を締結したことは前記のとおりであるけれども、これらの事実によつては、未だ電労が会社の保護、育成によつて結成された御用組合であるとはたやすく断じ難く、他にこの点を認めるに足る何らの資料もない。かえつて、証人井川正輝、同伊東苞、同佐々木定、同山口恒則の各証言を綜合すると、全国的単一組織であつた電産が、昭和二七年になした争議の際に採つた方針、手段について、各組合員からきびしい批判をうけ、そのため全国的に汎く企業別労働組合の結成の動きが活溌となり、中部、東北、関西の各方面についで四国にも電労が結成されるに至つたこと、その結成について、会社としては好意と期待とを抱きつつも、特に積極的な誘導、援助をした形跡がないこと、及び会社と電労とが労働協約を締結するに至るまでには度重なる団体交渉を開いたものであり、殊に本件シヨツプ条項の締結については、その締結を妥当としない会社とそれを強要する電労との間において、かなり激しい応接のあつたものであることをいずれも認めることができるのであるから、電労が必ずしも御用組合であるとは認め難いといわなければならない。尚、電産が分裂して新たに電労が結成された際、当時電産と被申請人会社との間にユニオン・シヨツプ条項があつたにも拘らず、会社がそれら電産からの脱退者を解雇しなかつたことは当事者間に争がないところ、申請人らは、右の場合において電産のシヨツプ条項を適用せずして、本件の場合に西田ら三名に電労のシヨツプ条項を適用することは、西田ら三名及び電産を不当に差別待遇するものである旨主張するけれども、前者が所謂分裂と称すべき事態であつて労働法上明かにシヨツプ条項を適用することの許されない場合であるに反し、後者は全く純然たる個別的脱退の場合なのであるから、それに対してシヨツプ条項の適用があることは明白であり、二者を同日に論ずることは到底できない。よつて、この点の主張は何ら採るに足らない。又、申請人らは、会社は電労を脱退して電産に加入しない者については、本件シヨツプ条項を適用しない旨の見解を有しながら、電労を脱退して電産に加入した西田ら三名についてその条項を適用することは、特に同人らを差別待遇するものである旨主張するけれども会社が右のような見解を現に有していることについては、何らこれを認めるに足る資料がないから、右主張について特に判断を加える必要がない。

更に、申請人らは、本件事情の下において、電労が被申請人会社に対してそのシヨツプ条項により西田ら三名の解雇を要求するのは、信義誠実の原則に反する旨主張するのであるが、シヨツプ条項締結の趣旨が、只管、締約組合の組織を維持し団結を強化することを主眼とするものである以上、電労が電産から分裂した第二組合であるとしても、そのシヨツプ条項の遵守を会社に対して要求することは、まことに当然であるというべく、そのことが第一組合たる電産に対して信義誠実の原則に反するためなすべからざる行為であると解することには到底左袒することができない。

以上によつて、被申請人会社が電労との間の労働協約上のシヨツプ条項により西田ら三名を解雇したことは正当であり、その解雇について格別無効とすべき理由を認めることができないから、西田ら三名において、その解雇が無効であることを前提としてなした本件仮処分申請は、結局その被保全権利の疏明が充分でないと謂はざるを得ず、その余の点の判断をするまでもなく却下を免れない。よつて、申請人電産についてはその当事者適格を欠ぐから不適法であることに因り、又、申請人西田、同浜渦、同水嶼らについてはいずれもその理由がないから失当であることに因り、申請人らのなした本件仮処分申請はいずれもこれを却下することとし、申請費用について民事訴訟法第八九条第九五条を適用の上主文のとおり判決する。

(裁判官 横江文幹 田村三吉 坂上弘)

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